2021/09/10
ナショナルの単一電池4本タイプの懐中電灯BF-792。LEDライトが主流になる10年くらい前までは、ホームセンターや家電量販店でたくさん売られてました。残念ながならこの製品は生産終了となっており、見かけることはないです。
しかしながら、LEDが主流になった今でも、単一4本のこのタイプの懐中電灯は強力ライトとして電池付きでたくさん売られていますね。直径10cm近くある大きなリフレクタから放たれる光は遠方まで届くので、きっと需要があるのでしょう。
今回はこのBF-792をLED化してみました。電球に戻す事ができるように、本体は無改造にして、電球部分のみを取り換える方法で改造にチャレンジしました。
どこのご家庭にも一つはありそうな、ごく普通の4D懐中電灯BF-792です。
作り方
電源電圧は乾電池4本で6Vあります。抵抗を入れて LEDの点灯電圧3V近くまで降圧するのが、一番単純で簡単です。これでは全く面白くないので、昇圧型DC-DCコンバータをつくり、定電流回路で検討してみます。
パーツは購入せずに、今パーツケースにあるものだけで作ろうと決めていたので、いままで多数作ってきて実績のある、ブロッキング発振の昇圧方式でつくりました。ジュールシーフともよばれ、古くからある有名な昇圧回路です。
利用したLEDはOSRAM社のSBLMA2.EM。セミパワー型で、複数個利用し明るさを確保します。
データシート:SBLMA2.EM
オリジナルのピリケン球の点灯部サイズは直径約10mm。サイズに収まるようにLEDは3×3の配置とし、9個直列としました。
表側構成
裏側構成
SBLMA2.EM。2mm×1.6mmととても小さいので、ピンセットで扱います。
構成図通りにはんだ付けしてみました。
裏側。
電流制限抵抗の算出。LED定格通りの65mAとすると、0.6V/0.065A=9.2Ωとなります。ここで急に出てきた0.6Vですが、トランジスタのベースエミッタ間電圧が大体0.6Vとなっているからです。パーツケースに9Ωの抵抗は無かったので、一番近かった10Ωのを抵抗を仮に選定しました。あとは、実際に回路を組んでみて、10Ωで適切かどうか決めることにします。
検討した回路図
LEDの組み立て。汎用アルミ放熱板を直径10mmに加工し、これにLEDを放熱シリコンで接着します。
検討した回路をブレッドボードで試してみました。電流制限抵抗10Ωで、LEDに流れた電流は68mA。電圧は25Vくらいでした。9個直列なので光ムラはありません。ほぼ定格通りでしたが、一つ問題が。LEDの発熱があり、10mmの放熱板+放熱シリコンでは心許ない感じがしました。10分位点灯させたところ、熱っ!てなるくらいです。耐久性に問題がでそうなので、少し電流を抑えてみます。
電流制限抵抗を10Ωから15Ωに交換して実験してみました。理論上流れる電流は0.6V/15Ω=0.04A(40mA)です。実測値は47.5mAでした。問題の発熱は…、熱いという感じではなくほんのり温かい程度になりました。これなら長時間ドライブさせても問題はなさそうです。電流制限抵抗は15Ωとすることにしました。明るさに関して、10Ωの時と15Ωの時と違いはあまり感じられませんでした。
電流制限抵抗を15Ωに変更し、最終的にこの構成で作成しました。電流・電圧の測定結果は以下の通り。DC-DCコンバータの効率は56%位です。60%は超えて欲しかったのですが、自作ですしまぁこんなものですかね。負荷が高く効率が悪くなったのかもしれません。
- 入力側(電池側エネループ4本):5.2V 400mA
- 出力側(LED側):24.6V 47.5mA
実際に利用した部品一覧。
ブロッキング発振回路に利用したコイルは直径5mmのフェライトコア。これにエナメル線をバイファラ巻きしています。1次2次共に30ターンとしました。不要な電球を割った後、ガラスをきれいに除去して、中の樹脂も取り除き口金のみの状態にします。
電球サイズに収めるために、空いたスペースにとにかく部品を詰め込むように工夫します。口金の中にはコイルとコンデンサ、1KΩの抵抗を入れました。
部品同士を直接はんだづけして、LED取り付け前までの状態です。
はんだ付けに問題がないか、いったん試験をしてみました。問題なく点灯し一安心。LEDを繋がない状態(出力側をオープン)で電源を繋いでしまうと、電圧が数十Vに達し、そこにLEDを繋ぐと壊れてしまいます。この回路で試す時は注意しましょう。
LED取り付け前の状態の詳細です。非常に格好悪いですね。
LEDをはんだづけしました。
部品とLEDの隙間をエポキシ接着剤で固めて、完全硬化後にやすりで形を整えて完成です。見た目はいまいちですね。オリジナルの電球と比較してみました。
完成した電球を取り付けていざ点灯させようと思ったら、重大なミスに気づきました。電球の底をプラス、側面をマイナスで作ったのですが、BF-792の電球ソケットはその逆でした。あああ~やってしまった(T_T)。電球は±の極性がないからどちらでもいいんだけど、LEDはそうはいかない。電球が完成してから気づきました。大体の懐中電灯は電球の底がプラスなので、同じだと思い込んでました。
さてどうしようか?ブリッジダイオードをいまさら入れる事も出来ないしな。一番簡単なのは電池を+と-逆に入れる方法。しかしこれもまた問題が…。
電池の逆装てん防止の構造となっておりました。電池のプラス端子の突起が電池受けのスプリングに接触し、マイナスだと接触しないようにプラスチックの部品が取り付けられてました。さすがPanasonicさん。安全のため細部まできちんと設計されています。安全を考えれば必要な部品なのですが、今回の場合はこれが邪魔して使えません。そのため、このプラスチック部品をラジオペンチで外してしまいました。
LED電球装着状態。
点灯
とっても明るいです。200ルーメンは超えているかな。自作改造ライトの中で一番明るいかもしれません。
オリジナル電球と、自作LED電球の比較です。大きなリフレクタで集光能力も高く、光軸をきちんと調整したためスポット照射もばっちりです。
近くのやぶを照射。
遠方照射。310m先の止まれ反射標識の照り返しが確認できました。
あとがき
- 電球のみ交換する方法でLED化できた。
- とにかく細かい作業が多く、作成難易度は高い。
- 自作DC-DCコンバータの効率は56%位。
- 電球のプラスとマイナスを逆に作るミスをしてしまい、本体の電池を逆に入れるようにして対応した。
- 昇圧定電流回路のため、電池電圧が下がっても明るさを保つ。
- 明るさと遠方照射能力はすさまじいものがある。大きなリフレクタに光軸を合わせた効果は大きい。
- 構造が複雑になったため、耐久性信頼性は心配あり。これから日常使いで様子見。
- パーツケースにあった部品のみで作ることができた。
- トランジスタの動作原理を学習するのには良い教材である。